銀行員は回転期間で粉飾決算を見抜く。融資審査のポイント

銀行員は回転期間で粉飾決算を見抜く。融資審査のポイント

銀行員が融資審査を行う際、必ず回転期間を用いた財務分析を行います。

回転期間は、会社の効率性を分析するときに用いられる指標です。棚卸資産(在庫)、売上債権、仕入債務の回転期間を分析することで、会社の特徴を知ることができます。

回転期間は非常に優秀な指標であり、回転期間を分析することで会社の粉飾を見抜くことができます。

今回は、回転期間について確認していきます。

回転期間とは

回転期間は、会社の効率性を分析するときに使う指標です。棚卸資産(在庫)、売上債権、仕入債務を分析するときに用いられます。詳細については後ほど説明します。

回転期間は、事業規模の違う会社同士を比較するときに便利な指標です。事業規模が違う会社の場合、決算書の残高を単純に比較することはできません。

しかし、回転期間にすると、単位が1か月あたり(あるいは1日あたり)になるため事業規模が違っても影響がありません。資本金が1千万円と1億円のように会社の規模が違っても、回転期間であれば同じ基準で比較することができます。

そのため、回転期間を使うと、業界平均と比較してその会社の経営はどのような状況にあるのか分析することができます。

主要な指標

回転期間で良く用いられるのは、棚卸資産回転期間、売上債権回転期間、仕入債務回転期間の3つです。

棚卸資産回転期間

棚卸資産回転期間は、棚卸資産が売上高の何月分あるか示したものです。会社が在庫をどの程度抱えているのか確認することができる指標です。在庫回転期間とも言います。

以下の計算式で求めます。

棚卸資産回転期間

(※1)棚卸資産には、商品、製品、仕掛品、原材料、貯蔵品が含まれます。

(※2)実務上、分母は平均月商を使用することが多いですが、分母を売上原価として計算することもあります。分母が平均月商の場合は、棚卸資産が月商の何か月分あるのか知ることができます。

 

棚卸資産回転期間は、その期間が短ければ短いほど現金化が早いことを意味するため、資金繰りが有利になります。

ただし、棚卸資産回転期間が短ければ良いのかと言うと一概には言えません。多様な在庫を抱えることがビジネスで有利になることもあります。

業界によって適正在庫の水準は異なってくるため、自社の属する業界の平均値と比較して分析を行うことが効果的です。

売上債権回転期間

売上債権回転期間は、売上債権が売上高の何月分あるか示したものです。売上債権の回収がどれだけ効率的に行われているか確認することができる指標です。

以下の計算式で求めます。

売上債権回転期間

売上債権には、受取手形、売掛金、割引手形が含まれます。割引手形も含まれところがポイントです。

売上債権回転期間の計算式を分解することで、売掛金回転期間や受取手形回転期間を計算することもできます。

売上債権回転期間は、その期間が短ければ短いほど現金化が早いことを意味するため、優良企業ということになります。

仕入債務回転期間

仕入債権回転期間は、仕入債権が売上原価の何月分あるか示したものです。商品や材料を仕入れてから決済するまでの期間を確認することができる指標です。

以下の計算式で求めます。

仕入債務回転期間

仕入債務には、支払手形、買掛金が含まれます。

仕入債務回転期間の計算式を分解することで、買掛金回転期間や支払手形回転期間を計算することもできます。

仕入債務回転期間は、その期間が短ければ早期に支払いをしているため資金繰りは苦しくなり、逆に長いときは支払いまでに余裕があるので資金繰りは楽といえます。

仕入債務回転期間が短くなってきている場合は注意が必要です。会社の信用力が低下し、決済条件が悪化している可能性があります。

回転期間で粉飾がばれる

回転期間を分析することで粉飾に気付く場合があります。

前期実績、業界平均、世の中の経済状況などと比較して差異が大きい場合、必ず何か理由があります。回転期間によって違和感に気付き、決算書の中身を深堀することで、粉飾がばれてしまうのです。

経営者へのヒアリング

融資の申し込みをした場合、経営者は銀行員からいろいろ事業に関することを聞かれます。どのような事業を行っているのか、どのような特徴があるのか、どのような計画を作っているのか、取引条件はどうなっているか等多岐に渡ります。

適正在庫の数量や取引先との決済条件といった項目が、ヒアリングした内容と実際の決算書の数字との間で整合性があるか確認されます。経営者の言っている内容と、実際の数字に乖離があれば、銀行員は当然疑問を持ちます。

粉飾をすると決算書上では歪みが生じます。財務分析をすると異常値が出やすいです。粉飾のよくある手口として、架空売上の計上や在庫の水増しがありますが、このようなことをすると回転期間の数字がおかしくなります。

たいてい回転期間で異常値が出て粉飾がばれてしまいます。

時系列で比較

通常、銀行が融資判断を行うときは、3期分の決算書を元に財務分析を行います。

財務分析は1年分の数字だけを見ても変化が分かりません。3年分の数字を見ることで、会社の傾向を掴むことができます。回転期間も3年のスパンで、長くなっているのか短くなっているのか判断します。

特に季節変動の激しい業種では、一時点のデータだけで分析すると、誤った判断をしやすくなるので注意が必要です。長期間のデータで分析することで、正しい分析ができるようになります。

例えば、架空売上を計上した場合、回転期間にどのような影響が出るのか考えてみます。

架空売上を計上した場合、相手勘定は売掛金になります。

仕訳だと下記のようになります。

(売掛金)1,000 (売上)1,000

この売掛金ですが、実際には存在しない売掛金のため、決算書上は回収されないまま残り続けることになります。

貸借対照表上、売掛金の残高は通常よりも大きくなります。売上債権回転期間や売掛金回転期間を計算すると、回転期間は長くなります。

架空売上が常習化すると、時系列で回転期間を見た場合、回転期間が年々長期化していきます。経営者からヒアリングした取引先の決済条件と回転期間が明らかに違ってきます。

最終的には、回転期間の異常値によって粉飾がばれてしまいます。

業界平均と比較

銀行は膨大な数の取引先を持っているため、業界ごとの平均的な回転期間のデータを持っています。業界平均の回転期間と比較したときに、あまりに数字が乖離していると粉飾が疑われます。同じ業界であれば、回転期間の数字はそうそう変わりません。

例えば、在庫の粉飾を行っている場合、棚卸資産回転期間は長くなります。どうして在庫が業界平均よりも多いのか明確に説明できないと、在庫の水増しを疑われ融資審査でかなり不利になります。

まとめ

回転期間は、非常に便利な指標です。実務上、財務分析を行うときは必ず使われます。

融資を申し込む際は、回転期間がどのように使われているのかは知っておいた方が良いです。