元銀行員の税理士が教える「融資審査でチェックされる勘定科目のポイント」

元銀行員の税理士が教える「融資審査でチェックされる勘定科目のポイント」

銀行に融資を申し込むと、必ず決算書の提出が求められます。決算書の内容で、融資の可否が決まるといっても過言ではありません。

怪しい勘定科目があると、融資審査に悪影響を及ぼす可能性があります。狙われる勘定科目には特徴があります。

元銀行員の税理士が「融資審査でチェックされる勘定科目のポイント」をご紹介します。

貸付金

貸付金という科目があると、本当に資産性があるのか疑われます。

貸金業でもない限り、通常の商取引で「貸付金」は発生しません。

よくあるのは、関係会社の業績が良くないので、親会社が貸付金という形で資金援助を行っているケースです。

貸付金が貸借対照表上にずっと残っているようだと、回収できない不良債権と判断されます。不良債権と判断されれば、融資審査の際に、貸付金の分だけ自己資本がマイナスされます。

見かけ上は資産超過であっても、貸付金の分だけマイナス評価になるので、場合によっては債務超過と判断される可能性があります。債務超過になると融資のハードルは一気に上がります。

他にも、貸付金は、使途が不明瞭な支出を処理するのに使われやすい科目です。貸付金が健全な資金であったとしたら、わざわざ銀行からお金を借りなくても、貸付金を回収して使えばいいのではないかということになります。

期中にやむを得ず貸付金勘定が発生してしまった場合でも、決算時点ではきれいに貸借対照表から消しておくのが無難です。

棚卸資産

粉飾決算の温床になっているのが在庫です。

不良在庫を費用処理しなかったり、架空の在庫を計上したりすると、会計上は利益が出ているように見えます。粉飾なので絶対止めましょう。

こういう処理をしていると棚卸資産(在庫)の金額が膨れ上がります。

銀行は膨大な数の取引先を抱えており、さまざまなデータを持っています。業種ごとの適正在庫の水準が分かっています。

在庫回転率や利益率の推移を分析する手法など、高度なノウハウを持っています。

こういったよろしくない処理をしていると、在庫水準に異常値が出ます。

コンプライアンスに問題のある企業には、銀行はお金を貸すことはありません。粉飾と疑われたら、融資を受けることは極めて難しいでしょう。

有価証券

貸借対照表上、有価証券が取得価額で計上されている場合であっても、融資審査の際は、時価に換算して評価されます。

バブル期に取得していた場合など、取得価額が高額になっているケースがあります。つまり、含み損がある場合です。

ゴルフ会員権は、ほぼ評価されないと思っておいた方がよいでしょう。含み損がある場合は、自己資本のマイナスとして評価されます。

資産勘定全般に言えることですが、含み損は全て自己資本のマイナスとして評価されます。

融資審査は、かなり保守的に判断されているということを頭に入れておく必要があります。

繰延資産

繰延資産は、会計上では資産になっていますが実態はありません。

本来費用であるものを、適正な期間損益計算の観点から繰り延べているものです。

擬制資産と呼ばれています。繰延資産は、換金価値がありません。貸借対照表に繰延資産が計上されている場合は、資産価値がないと判断される可能性があります。

融資審査の際に、繰延資産分を自己資本のマイナスとして判断される恐れがあります。

減価償却費

減価償却費を計上すると赤字になってしまうため、減価償却費を計上せずに、無理やり黒字にしているケースがあります。見かけ上黒字にしていても、銀行の融資審査の際にはあまり意味がありません。

融資審査の際は、適正に減価償却費を計上していた場合の仮想の損益計算書を別途作成し、仮想の損益計算書をもとに分析を行います。

小手先のテクニックで黒字にしても、銀行にはすぐ見抜かれてしまうので注意が必要です。融資審査の際に、法人税確定申告書の別表16の減価償却不足額の金額についても確認しています。

関連記事>>>減価償却せずに黒字にしても銀行にばれます。減価償却費を計上しないとどうなる?

雑費・雑損失

雑費や雑損失は、他の科目に該当しないものをまとめて表示する科目です。科目や金額の重要性が低いものを処理するための科目で「その他」という位置づけです。雑費は販売費及び一般管理費、雑損失は営業外費用に表示されます。

その他という位置づけなので、これらは他の科目に比べて金額が小さいのが普通です。

ところが、他の科目に比べて雑費や雑損失の金額が、異常に大きくなっている場合があります。こういう場合、表に出したくない費用をカモフラージュしていると確実に疑われます。

銀行に決算書を提出する場合、勘定科目内訳書も合わせて提出します。

通常、勘定科目内訳書には、雑費や雑損失の主な内訳が書いてあります。

内容を隠したい場合、勘定科目内訳書上でも、その他といったように濁してある場合が多いです。

心証が悪いと言わざるを得ません。間違いなく融資担当者から科目の中身についての質問を受けることになります。

特別損益

特別損益は、臨時的に発生した科目です。経常的な取引ではないため、特別利益として多額の利益を計上していたとしても、銀行の評価は高くなりません。

経常利益は赤字なのに、特別利益が出ているため当期純利益が黒字になっているという場合は、目を付けられます。

よくあるのは赤字を補填するために保険を解約したり、固定資産を売却したりして、特別利益を計上しているケースです。臨時的な項目を営業外収益に計上している場合も同じ理屈です。

経常利益が赤字ということは、本業では儲かっていないということです。

銀行の融資判断のポイントは、貸したお金が返ってくるのかということです。特別利益で無理やり利益を出していても、一過性のものです。

経常利益が赤字ということは、本業ではキャッシュアウトしている可能性が高いです。返済能力が低いと判断されても文句は言えません。

まとめ

融資審査の際に狙われる勘定科目について紹介してきました。

これらの項目は、日頃の経理処理の段階から意識しておかないと、決算処理だけでどうこうできるものではありません。

銀行からお金を借りるためには、銀行がお金を貸したいと思う決算書を用意しなければいけません。

将来、銀行から融資を受けたいと考えている場合は、お金を借りる前から入念な準備が必要になります。