日商簿記1級は、簿記の検定試験の中で最も難易度の高い試験です。
税理士試験や公認会計士試験への登竜門と言われています。
合格すれば、税理士試験の受験資格を得ることができます。
会計のプロを目指す人にとっては、日商簿記1級は避けては通れません。
今回は、日商簿記1級に合格するための戦略について考えていきます。
目次
日商簿記1級概要
試験について
日商簿記は、商工会議所が実施する検定試験です。
日商簿記1級は年2回試験が開催されています。
例年、6月と11月に行われています。
試験科目は、商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算の4科目で、試験時間はトータル180分になります。
レベル
日商簿記1級は、大学等で専門に学ぶ者に期待するレベルとなっています。
簿記3級のレベルを1とすると、簿記2級はレベル3、簿記1級はレベル25くらいの感覚です。
極めて高度な商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算を修得し、会計基準や会社法、財務諸表等規則などの企業会計に関する法規を踏まえて、経営管理や経営分析ができることが期待されるレベルです。
高校生が合格するとニュースになります。
勉強時間の目安
大手資格学校では、日商簿記1級の勉強時間の目安を600時間程度としています。
簿記は結構センスが問われるので、全ての人が600時間で合格できるとは考えない方が良いでしょう。
600時間で合格できれば相当優秀な人です。
私の場合は、日商簿記1級に合格するまでに1,000時間以上かかっています。
毎日どれくらい勉強時間を確保できるのかによっても総勉強時間はだいぶ変わってきます。
1日1時間の勉強を2年続けても、なかなか合格できないと思います。
短期間に集中的に勉強した方が、合格しやすいです。
足切り制度
日商簿記1級の特徴として「足切り制度」があります。
4科目のうち、いずれか1科目が10点未満だと、4科目の合計で合格点を上回っていても不合格になってしまいます。
各科目満遍なく得点しないといけないため、ヤマを張りにくい試験です。
傾斜配分
日商簿記1級は合格基準が70点となっていますが、実質的には上位10%が合格する競争試験です。
日商簿記は配点が公表されないため、採点はブラックボックスです。
上位10%が70点を超えるように傾斜配分を行い、合格率が一定になるように得点調整されているという見方が有力です。
そのため、他の人ができる問題は確実に得点し、誰も解けない問題は捨てるという考え方が重要になります。
日商簿記1級の合格率
日商簿記1級の合格率は、10%前後となっています。
直近5回の試験データは下記のとおりです。
日商簿記1級受験者データ
日商簿記1級合格への戦略
それでは具体的に日商簿記1級に合格するための戦略を考えていきたいと思います。
工業簿記・原価計算で足切りを回避する
1級攻略のカギは、工業簿記・原価計算です。
工業簿記と原価計算を制する者が、合格を勝ち取ることができます。
なぜ、工業簿記と原価計算なのかというと、日商簿記1級の特徴である「足切り制度」が関係してきます。
日商簿記1級で一番怖いのが、足切りによって不合格になってしまうことです。
足切りになりやすい科目が、工業簿記と原価計算になります。
工業簿記と原価計算の特徴として、問題が連動していることがあげられます。
例えば、問1で計算した答えを使って、問2の計算を行うという感じです。
計算の最初の段階で答えを間違えると、そのあとの問題も芋づる式で間違えてしまうことになります。
工業簿記と原価計算は、部分点で点数を積み上げていくという方式が取りにくいです。
問題の性質上、高得点か全く点数がとれないかという極端な結果になりやすいです。
工業簿記と原価計算の足切りだけは、本当に注意しないといけません。
商業簿記と会計学は部分点を積み上げる
一方、商業簿記と会計学は部分点を積み上げやすい科目になります。
商業簿記と会計学では、一つの項目で計算ミスをしても、致命傷になりにくいです。
総合問題は、独立した論点の問題が組み合わさってできているため、それぞれ個別に計算することができます。
解ける問題だけを解いて、解けない問題は捨てるという方針が取りやすいです。
工業簿記・原価計算を得意科目にする
工業簿記・原価計算が得意科目になると、かなり楽に戦えるようになります。
商業簿記と会計学は、高得点を取るのは難しいですが、大崩れする可能性は低い科目になります。
勉強していくにつれ、点数が安定してきます。
日商簿記1級に合格する上では、商業簿記と会計学の難しい問題を解けるようになる必要はありません。
ほとんどの人が解けない問題は、傾斜配分がかかってどうせ配点が来ません。
基本問題を確実に得点できるように準備しておけば、難しい問題は捨てて大丈夫です。
むしろ解いてはいけません。
商業簿記と会計学で合格圏内の点数を取れるようになったら、勉強の比重を工業簿記・原価計算に移していきます。
商業簿記・会計学で点数の上積みを狙うよりも、工業簿記・原価計算で絶対に足切りにならないように対策をしておく必要があります。
どんな問題が出たとしても、最低限足切りだけは回避しなければいけません。
また、工業簿記と原価計算は、問題がはまれば満点が狙えます。
商業簿記と会計学よりも高得点が出しやすいです。
勉強をやり込み合格水準に達してくると、工業簿記と原価計算のどちらか一方は高得点が取れるようになってきます。
勉強の費用対効果は、工業簿記・原価計算の方が商業簿記・会計学よりも高いです。
毎日手を動かして問題を解く
簿記は勉強よりもスポーツに近いと考えています。
簿記はどれだけインプットしても、アウトプットの練習をしない限り絶対に解けるようになりません。
スポーツは毎日体を動かさないとすぐに感覚が狂ってしまいます。
簿記も似たようなところがあります。
しばらく放っておくと問題が全然解けなくなります。
簿記の実力を維持するためには、毎日総合問題を解くことを習慣にするのが一番良いです。
不思議なもので毎日電卓を叩いて集計する練習をしていると、あまり時間をかけて復習をしなくても簿記の実力を維持できるようになります。
資格学校を利用する
日商簿記1級は市販の教材で勉強することができますが、効率良く勉強するのであれば大原やTACなどの資格学校を利用することをおすすめします。
資格学校を利用する一番のメリットは、スケジュール管理がしやすいことです。
カリキュラムが決まっているので勉強のペースがつかみやすいです。
簿記はある日突然できるようにはなりません。
地道にコツコツ勉強していくことが大切です。
最後に
日商簿記1級は、税理士や公認会計士を目指している人が多数受験するため、合格率以上に難易度は高いです。
しかし、努力すれば合格できない試験ではありません。
毎日コツコツ電卓を叩き問題を解く練習を積み重ねていくと、実力は確実に上がっていきます。
日商簿記1級は範囲が広いため、忘却曲線との戦いになります。
新しい論点の勉強をすると前にやった論点を忘れてしまうということが出てきます。
こればかりはどうしようもありません。
何度も何度も繰り返して、塗り固めていくしかないです。
忘れたことを思い出すという作業を少しでも減らすためには、短期間に集中的に勉強に取り組むことが効果的です。
絶対に合格したければ、試験までの数か月間は、簿記中心の生活で行くくらいの気持ちが欲しいです。
日商簿記1級に合格すれば十分元は取れます。