事業を始める際に、事業形態を個人にするのか法人にするのかは、悩ましい問題です。
税務上では、個人と法人では取扱いが大きく変わってきます。
個人と法人でどちらが有利になるのかは、一概に判断できません。
それぞれ、メリットとデメリットがあります。
事業の状況によって、どちらを選ぶべきなのか変わってきます。
比較検討するためには、個人事業主と法人の特徴を理解することが必要になります。
それぞれの違いを理解したうえで、今置かれている状況にあてはめ、どちらが適切なのか判断していくことになります。
個人事業主と法人の特徴
個人事業主と法人の特徴を以下にまとめました。
個人事業主と法人の比較表
項目 | 個人 | 法人 | コメント |
設立手続き | 〇 | × | 法人は設立費用がかかる |
経理負担 | 〇 | × | 法人は経理処理が難しい |
ランニングコスト | 〇 | × | 法人は赤字でも均等割 |
節税効果 | × | 〇 | 法人は経費の範囲が広い |
信用力 | × | 〇 | 法人は信用力が高い |
事業規模が小さいうちは個人、ある程度規模が大きくなると法人の方が有利になる傾向があります。
個人事業主として事業を始める方が、手続きが簡単で、初期コストをおさえることができます。
その代わりに、個人事業主は、節税効果が法人に比べて低くなります。
具体的に、それぞれの項目の内容について確認していきます。
設立手続き
個人 | 法人 | |
設立手続き | 開業届の提出 | 定款作成・登記が必要 |
個人事業主と法人では、事業を始める際の初期コストが変わってきます。
個人事業主は、税務署に開業届を提出するだけで、事業開始に係る手続きが完了します。
費用はかからないため、初期コスト0円で事業を開始することができます。
一方、法人として事業を始める場合は、法人設立の手続きから始めないといけません。
法人形態としては、株式会社と合同会社が一般的です。
合同会社は、株式会社に比べるとマイナーですが、設立費用が株式会社よりも安いため、広く利用されている会社形態です。
西友やアマゾンジャパンといった有名企業でも、合同会社を採用しています。
法人を設立する際には、最低でも6万円必要になります。
設立費用比較
項目 | 株式会社 | 合同会社 |
収入印紙代 ※1 | 40,000円 | 40,000円 |
公証人手数料 | 50,000円 | - |
定款の謄本手数料 | 2,000円 | 2,000円 |
登録免許税 | 150,000円 | 60,000円 |
設立費用目安 | 200,000円~ | 60,000円~ |
※1 電子定款の場合は、収入印紙代は不要です。
※2 司法書士など専門家に法人設立を依頼する場合は、別途専門家に支払う費用が発生します。
このように、法人の場合は設立に係る費用が生じるため、初期コストは高くなります。
経理負担
個人 | 法人 | |
経理負担 | 個人の確定申告
経理負担が小さい |
法人の確定申告
経理負担が大きい |
事業を始めると、毎年確定申告を行い、税金を納める必要が出てきます。
個人事業主は所得税、法人は法人税を納めることになります。
個人事業主と法人では、法人の方が経理処理は難しいです。
法人の決算・申告を行うためには、専門知識が必要になります。
経理の知識がない場合、税理士に申告作業を依頼しないといけない場合も出てきます。
税理士に依頼するとなると、税理士報酬の支払いが発生します。
ランニングコスト
個人 | 法人 | |
ランニングコスト | 均等割なし | 法人は赤字でも均等割 |
法人の場合、赤字であっても、法人住民税の均等割を支払う必要があります。
この均等割は、会社が存続している限り必ず支払わなければいけないものになります。
均等割は、会社の規模によって税額が決まっています。
最も小さい規模の会社(資本金1,000万円以下、従業員50人以下)であっても、7万円かかります。
個人事業主には、均等割のような税金はありません。
個人住民税に均等割がありますが、これは事業を行っていない人であっても支払う必要があるものなので、事業に関係する税金ではありません。
法人形態で事業を行う場合、業績に関わらず均等割の7万円は、必ず発生します。
法人を設立する際は、均等割というランニングコストがあることを、考慮に入れておく必要があります。
節税効果
個人 | 法人 | |
節税効果 | 経費の範囲が狭い | 経費の範囲が広い |
法人の方が個人事業主に比べて、経費にできる範囲が広くなります。
これは、法人の事業形態における最大のメリットです。
例えば、給与の経費化があげられます。
法人の場合、自分に支払う給与(役員報酬)は一定の要件を満たせば経費にすることができますが、個人事業主の場合、自分に対して給与を支払い経費にすることはできません。
経費にできる項目が増えると、その分利益を圧縮できるため、税金を減らすことができます。
他にも法人であれば、福利厚生費をうまく活用することで、自分の生活費を会社の経費で落とすこともできます。
法人の場合、個人よりも節税の幅が広がります。
ただし、法人は、設立費用や均等割といったコストがかかるため、節税効果が小さいと法人のメリットを十分生かすことができません。
信用力
個人 | 法人 | |
信用力 | 信用力が低い | 信用力が高い |
信用力の面では、個人事業主に比べて、法人の方が勝ります。
法人の場合、登記簿謄本によって公的に法人の存在を確認することができます。
しかし、個人だと公的に情報を確認することができません。
そのため、なかには、法人としか取引をしないという企業もあります。
税制上のメリットよりも、社会的な信用を得ることを目的に、法人形態をとっているケースも多いです。
結論:事業規模が売上1,000万円を超えたら法人が有利
個人事業主と法人のどちらが有利なのかは、事業規模が大きく影響します。
一つの目安が、売上1,000万円です。
売上が1,000万円に届かないうちは、法人にしても節税の効果を十分享受することができません。
法人を設立し維持するためにはコストがかかるため、事業規模が小さいうちは節税の効果だけでは賄いきれません。
個人事業主で事業を始めて、あとから法人形態に変更することもできます。
事業規模が拡大してから、法人成りするのでも遅くはありません。
個人事業主と法人の特徴を理解し、コスト比較を行い判断していくのがポイントです。