個人事業主の青色申告特別控除には、65万円控除と10万円控除の2種類があります。
65万円控除の方が有利になりますが、65万円控除を使うためには適用要件を満たす必要があります。
要件のポイントになってくるのが、貸借対照表です。
今回は、貸借対照表の注意点を中心に、65万円青色申告特別控除で間違えやすいポイントについて確認していきます。
目次
65万円青色申告特別控除の要件
青色申告特別控除には65万円控除と10万円控除の2種類があります。
まずは65万円控除と10万円控除の違いについて確認してみましょう。
青色申告特別控除を使うためには、青色申告承認申請書を期限内に提出しておかないといけません。
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青色申告承認申請書を提出していれば、10万円控除については問題なく使えます。
65万円控除を使うには、青色申告承認申請書を提出した上で、さらに次の要件をクリアする必要があります。
65万円控除の要件
- 事業所得か事業的規模の不動産所得であること
- 複式簿記により記帳していること
- 貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付していること
- 確定申告書を申告期限内に提出すること
この中でポイントになってくるのは、貸借対照表です。
貸借対照表を作れるかどうかが、65万円控除と10万円控除の分かれ目です。
貸借対照表は複式簿記で処理していかないと作れないので、貸借対照表を作成すれば複式簿記により記帳するという要件は自動的に満たします。
貸借対照表の注意点
私はこれまでかなりの数の決算書を見てきましたが、貸借対照表を正確に作れている人は意外と少ないです。
貸借対照表は損益計算書よりもイメージしにくいのが要因だと思います。
貸借対照表は、ざっくり言うと自分の財産の一覧表です。
現金がいくらあるか、不動産がいくらあるか、あるいは借金がいくらあるかということが分かる表になっています。
貸借対照表の金額はプラス
貸借対照表に出てくる数字は、基本的にプラスです。元入金はマイナス残高になることもありますが、他の項目はプラスになります。
現金、売掛金、買掛金、敷金のような資産や負債の項目は、金額がマイナスになることはありません。
現金で考えるとわかりやすいと思います。
現金はどんなに少なくても0円です。現金がマイナスになることはありませんよね。
現金がマイナス10万円というのは、借金(借入金)が10万円ということです。
そのため、貸借対照表を作るときは現金をマイナスにするのではなく、借入金にプラスの金額を記載することになります。
現金:-10万円 ⇒ 現金:0円、借入金:10万円
(現金)10万円 (借入金)10万円
現金がマイナスになっていたら、上のような仕訳を切って、現金残高を修正しないといけません。
作成した貸借対照表を見たときに、残高がマイナスになっている項目がある場合は、どこか必ず処理が間違っています。
マイナス残高があるときは、もう一度仕訳をチェックしてみましょう。
事業主貸、事業主借
事業主貸や事業主借は、個人事業主特有の項目です。
会社の経理では出てこないため、慣れていないと面食らってしまうかもしれません。
事業主貸や事業主借は、プライベートの取引を処理するための勘定科目です。
事業主貸:事業用のお金をプライベートで使った場合
事業主借:事業用の経費を個人のお金で支払った場合
事業主借は、個人事業という視点からだと借金(負債)になります。
一方、事業主貸は、貸付金(資産)になります。
貸借対照表の期首時点の欄を見てみると、事業主貸と事業主借の欄には、斜線が記入されていて数字が入らないようになっています。
「事業主貸」と「事業主借」は、毎年期首の元入金を計算するときに、リセットされる仕組みになっています。
会計ソフトを使っていると、年度更新の計算を自動でやってくれるので、あまり気にしなくて大丈夫です。
元入金
元入金(もといれきん)とは、個人事業主が事業にどのくらいの資金を出資しているのかを表したものです。
開業時は開業のために用意した資金が元入金となり、その後の各年度においては、年度が始まる時点で事業のために用意してある資金が元入金となります。
会社の資本金のようなものですが、資本金とは取り扱いが異なるため注意が必要です。
資本金は増資や減資をしないと金額は変わりませんが、元入金は毎年金額が変わります。
元入金は、よく質問を受ける項目です。
他の勘定科目と比べると確かに分かりにくいです。
でも難しく考える必要はありません。
期中の処理で元入金を使った仕訳は出てきません。
なので、期首の元入金さえ計算してしまえば、後は何もしなくて大丈夫です。
元入金の計算式
新年度の元入金=前年の青色申告特別控除前の所得+前年における期末の元入金+事業主借-事業主貸
会計ソフトを使えば、元入金は自動的に計算されます。なので、元入金っていう項目があるんだなくらいの理解で大丈夫です。
65万円控除できるとは限らない
赤字の場合
65万円の青色申告特別控除の要件を満たしても、65万円控除が必ず使えるわけではありません。
一番わかりやすいのが、事業所得や不動産所得が赤字の場合です。
65万円の青色申告特別控除は、事業所得や不動産所得が黒字の場合に適用できることになっています。
所得控除(扶養控除や医療費控除など)とは考え方が異なります。
所得控除であれば、すべての所得の合計額から控除できるので、事業所得や不動産所得が赤字であったとしても、他の所得との合計がプラスになる場合は所得控除が使えます。
青色申告特別控除は、黒字のときに使えるものと覚えておきましょう。
なお、赤字の場合は欠損金の繰越控除といって、赤字額を3年間繰り越すことができます。
所得が65万円未満の場合
事業所得や不動産所得が黒字であっても、所得金額が65万円未満の場合は、所得金額までしか青色申告特別控除は使えません。
たとえば、事業所得が40万円だったとすると、青色申告特別控除は40万円になります。
40万円控除した段階で事業所得は0円になるので、それ以上は青色申告特別控除を使うことはできません。
不動産所得は5棟10室基準
不動産所得の青色申告特別控除の要件は、事業所得よりも厳しくなっています。
不動産所得で青色申告特別控除を適用するには、不動産の貸付が事業的規模で行われている必要があります。
事業的規模かどうかは「5棟10室基準」によって判断します。
5棟10室基準
- 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
- 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
一戸建て1棟とアパート2室は同じ規模と考えます。
たとえば、一戸建て2棟とアパート 6室を賃貸する場合には、事業的規模の要件を満たしていると判断します。
青色申告特別控除の節税額の考え方
青色申告特別控除は、納税額が10万円減ったり65万円減ったりするわけではありません。
節税できる金額は、10万円×所得税率もしくは65万円×所得税率です。
所得税率が20%だとすると節税額は以下のようになります。
10万円控除 10万円 × 20% = 2万円
65万円控除 65万円 × 20% = 13万円
所得税率の区分は、自分自身の所得金額によって変わってきます。
そのため、青色申告特別控除によって節税できる金額は人それぞれ違います。
所得税率の区分が高いほど節税額は大きくなります。
間違えやすいところなので注意しましょう。
65万円控除にチャレンジしよう
65万円の青色申告特別控除を使うには貸借対照表の作成がカギになります。
貸借対照表を作る上で以下の項目が特に大切です。
- 金額がマイナスにならないように注意する
- 事業主貸と事業主借の違いをおさえる
- 元入金を難しく考えすぎない
貸借対照表を難しく考えすぎて65万円控除を諦めるのはもったいないです。
ぜひ貸借対照表にチャレンジしてみてください。