渡切交際費とは?税務上の取扱いについて

渡切交際費とは?税務上の取扱いについて

交際費と似たような言葉で「渡切交際費」というものがあります。

交際費と入っているので間違えやすいですが、渡切交際費は税務上では交際費でなく給与として取り扱われます。

渡切交際費には、いくつか注意しないといけないポイントがあります。

それでは、渡切交際費について確認してきましょう。

渡切交際費

渡切交際費とは

渡切交際費とは、役員または従業員に前渡しする交際費で、その使途も使用金額も問わず、後日精算も行わないものをいいます。

通常、役員や従業員が支出した交際費は、領収書などで後から精算することになりますが、交際費として支出しても必ずしも領収書がもらえるとは限りません。

例えば、接待の相手方にタクシー代として現金を渡すようなケースです。

このような場合、領収書をもらうのは現実的ではないため、渡切交際費として処理されます。

渡切交際費はあとから精算を行わないため、税務上は交際費になりません。

渡切交際費は、任意に処分できる性質のものであることから、給与として取り扱われます。

交際費との違い

渡切交際費と交際費の一番大きな違いは、あとで精算されるかどうかという点です。

渡切交際費の場合は、たとえ交際費の性質を持った支出であっても、あとから内容を確認できないため交際費として経費にすることはできません。

交際費として処理するためには、次の事項を記載した書類を保存しておく必要があります。

  • 飲食等のあった年月日
  • 飲食等に参加した得意先、仕入先その他の事業関係者の氏名または名称およびその関係
  • 飲食等に参加した人の数
  • 飲食等の金額、飲食店の名称、所在地

交際費の方が、何に使ったお金なのか明確にしている分、クリーンな支出といえます。

渡切交際費の税務上の取扱い

渡切交際費は給与になる

渡切交際費は、本来は前渡金なので、あとから精算するのが一番良いです。

しかし、資金使途を明かしたくない場合もあることから、精算せずにそのままになることもあります。

使い道が明らかでない場合、業務に関係のある支出なのか個人的な支出なのか区別がつかないため、会社の経費にすることはできません。

そのため、渡切交際費は、支給を受けた役員や従業員の給与として取り扱われます

役員に支給する場合は注意

渡切交際費を役員に支給する場合は、注意が必要です。

渡切交際費は給与になるため、役員に支給するものは役員給与に該当します。

法人税法上、役員に対する給与は従業員の場合とは異なり、経費と認められるための要件が厳しくなります。

役員報酬が経費と認められるためには、次のいずれかの支給方法でなければいけません。

役員報酬の支給方法

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与

定期同額給与

定期同額給与とは、毎月定額の役員報酬を支払う方法になります。

毎月50万円で年間600万円といった感じで、基本的には1年間同じ金額を毎月払っていくことになります。

仮に、毎月50万円の役員報酬にプラスして、渡切交際費を支給するとしたらどうなるでしょうか?

【例】

役員A氏に対して毎月50万円の定期同額給与を支給している。

12月と3月に接待があったため、渡切交際費としてそれぞれ10万円ずつ支給した。

なお、事業年度は4/1~3/31までである。

渡切交際費

渡切交際費を支給したことによって、12月と3月の役員報酬の合計額が60万円になっています。

定期同額給与は、毎月同額であることが必要です。

そのため、超えてしまった12月と3月の合計20万円は、会社の経費にすることはできません(損金不算入)。

事前確定届出給与

役員報酬を支給するには、事前確定届出給与という方法もあります。

事前確定届出給与とは、役員のボーナスのことです。

定期同額給与の他に、臨時に支給する役員報酬がある場合は、「事前確定届出給与」を使うことによって会社の経費(損金)にすることができます。

事前確定届出給与を使うときは、注意しないといけないことがあります。

事前に、支給金額と支払日を決めて、届出書(事前確定届出給与に関する届出書)を提出して必要があることです。

届出書を提出せずに役員報酬を支給した場合や、届出書の内容と異なる支払いを行った場合は、会社の経費にできません。

毎年、年末に決まった金額を渡切交際費として支給しているという会社であれば、届出書を出しておくと、税務上有利な取扱いをすることができます。

忘れずに届出書を提出するようにしましょう。

事前確定届出給与に関する届出書

給与には所得税、住民税がかかる

給与になるということは、所得税や住民税がかかることになります。

基本給の支給時と同じように、源泉徴収の対象になります。

渡切交際費を支給されても、支給された分はそのまま出ていくため、実質的に給与が増えているわけではありませんが、所得税や住民税は余計に払わないといけなくなります。

そのため、渡切交際費が支給された本人にとっては、所得税や住民税の負担が増えるだけでよいことはありません。

使途秘匿金

渡切交際費は、使途秘匿金という問題も関係してきます。

使途秘匿金とは、特に理由がないのに、相手の氏名や住所、支出の理由を帳簿書類に記載していない支出のことをいいます。

つまり、意図的に使い道を隠しているお金になります。

使途秘匿金は、経費にならないばかりか、さらにその支出額の40%が追徴課税される大変厳しい取扱いになっています。

役員や従業員に対して支給する渡切交際費が、使途秘匿金にあたる場合は、給与ではなく使途秘匿金として処理されてしまいます。

渡切交際費は得なの?

それでは結局のところ、渡切交際費を支給するのは得なんでしょうか、それとも損なんでしょうか?

渡切交際費にすると有利な面もありますが、できることなら渡切交際費は使わない方がよいでしょう。

 

交際費が限度額を超えているような企業にとっては、一定の節税効果が見込めます。

交際費には限度額が設定されているため、限度額を超えると経費にすることはできません。

しかし、渡切交際費として給与という形で支給すれば、会社の経費にできるからです。

ただし、給与になると「定期同額給与」や「事前確定届出給与」といった他の問題が絡んでくるため、慎重な運用が求められます。

 

渡切交際費は、後日精算する必要がなく手間がかからないので、事務処理の観点からはメリットがあります。

しかし、何に使ったか分からないお金があるというのは、会社のリスクになる恐れがあります。

使途秘匿金とみなされると、会社にはかなりのダメージになります。

会社が内容を把握できない支出は、コンプライアンス上の不安を抱えることになるし、好ましくありません。

私が経営者の立場であれば、渡切交際費という形式にはせず、交際費としてきちんと精算するか、給与を上げるといった対応になるでしょう。