税理士あるある。税理士泣かせの法人税申告実務3選

税理士あるある。税理士泣かせの法人税申告実務3選

税理士に法人税申告を依頼していると、成果物が出来るまでの過程は、外部からは分かりにくいものです。

税理士の仕事は、細かいルールに沿って、数字を集計しないといけないことが多いです。

なかには厄介だなと思う論点が出てきます。

本日は、法人税申告における税理士あるあるをご紹介します。

税理士のぼやきをお楽しみください。

所得拡大促進税制

税理士泣かせの論点として、真っ先に思い浮かぶのは、所得拡大促進税制です。

所得拡大促進税制が好きな税理士は、おそらく存在しません。

 

所得拡大促進税制とは、従業員への給与の支払い額が増加するなど一定の要件を満たした場合に、会社が税額控除の恩恵を受けられる制度です。

個人の給与を増やすための政策です。

所得拡大促進税制の特徴

  • 計算が難解
  • 集計ミスの恐怖
  • 資料準備が煩雑
  • 適用できないと分かったときの絶望感

計算が難解

もう少し分かりやすい制度に出来なかったのかと思うくらい、計算過程が複雑です。

所得拡大促進税制に出てくる用語も非常に分かりにくいです。

所得拡大促進税制の手引き(マニュアルのようなもの)を一回読んだくらいでは、どのように計算すれば良いのかさっぱり分かりません。

集計ミスの恐怖

所得拡大促進税制を計算するためには、要件ごとに該当する人を抽出して、金額を集計していく必要があります。

従業員が20人くらいであれば、集計はそこまで手間ではありませんし、正しくデータが集計されているか全件チェックすることもできます。

しかし、従業員が数千人、数万人とかになってくると、データは膨大になります。

ここまで量が多くなると、データが正しく集計されているのか検証を行うのは困難です。

集計ミスをして税額控除の金額を間違ったとなれば、影響は計り知れません。

所得拡大促進税制の計算は、非常に怖いです。

大企業になると、所得拡大促進税制が使えるか使えないかだけで、納税額が数億円規模で変わってきます。

資料準備が煩雑

所得拡大促進税制は、給与や従業員に関するデータが必要になります。

会社のマル秘情報になるため、取扱いには十分注意が必要です。

人事部の管轄であることが多く、経理部でさえデータに触れることができない場合があります。

その場合、必要なデータは人事部にお願いしなくてはいけません。

経理の知識がない人事部の方に、必要な資料を準備してもらうのは、かなりの負担をかけることになります。

税理士でさえ分かりにくいと感じる制度です。

知識のない方であれば、アラビア語を解読するようなものです。

集計の元となるデータを準備してもらうだけでも一苦労になります。

適用できないと分かったときの絶望感

所得拡大促進税制が適用になると、税額控除を受けることができるため、非常に有利です。

税額控除のメリットが大きいため、従業員数が大幅に減っているなど、明らかに適用要件を満たさないと判断できる場合以外は、制度を適用できないか検討を行うことになります。

適用できれば、労力をかけて集計した甲斐があったとなりますが、問題は適用できなかったときです。

適用できなかったとしても、集計の手間は変わりません。

適用できないと分かったときの絶望感は半端ないです。

減価償却費の税務調整

減価償却費は、会計用語の中でもメジャーな部類なので、お聞きになったことがある人も多いと思います。

減価償却費も厄介な論点です。

減価償却費の税務調整は、はまると抜け出せない、底なし沼のような感じです。

減価償却費の税務調整の特徴

  • 税会不一致
  • 取得年度によって計算方法が違う
  • 資産が増えると処理が難解

税会不一致

税会不一致とは、会計上の仕訳と税務上の仕訳が異なることを言います。

税会不一致が生じると、法人税の計算を行う上で、会計上の仕訳を法人税法上の仕訳に修正しないといけなくなります。

法人税申告書上、減価償却超過額や減価償却超過額認容といった税務調整が出てくることになります。

会計監査を受けているような大企業や外資系企業では、通常は税会不一致になります。

なぜ税会不一致が生じるのかというと、会計と税務では減価償却の考え方が異なるからです。

会計では、適正な期間損益計算が重視され、税務では、公平な税負担が重視されています。

法人税申告は、会計上の金額をベースに計算していくので、会計と税務で考え方が異なる部分については税務調整を行い、税務上の金額に修正していくことが必要になります。

 

中小企業の実務においては、税務会計といって、会計上の仕訳と税務上の仕訳を一致させた処理を行います。

税務会計では、税務調整が不要になるため、処理負担がかなり軽減されます。

税務会計が使えないと、負担が一気に増え、税理士のメンタルを削っていくことになります。

取得年度によって計算方法が違う

税法は頻繁に改正があります。

減価償却も改正の影響をもろに受けており、固定資産を取得した年によって、減価償却費の計算方法が変わってきます。

複数の計算方法を使い分けるとなると、ミスをする確率が高くなります。

特に定率法がややこしく、ミスをしやすいです。

定率法には、改定償却率という考え方があり、定額法に比べて計算の工程が増えます。

定率法の方が面倒なのですが、減価償却費を前倒しで計上できるので、実務では定率法がよく用いられています。

資産が増えると処理が難解

減価償却の難易度は、固定資産の数によって大きく変わってきます。

大企業になってくると、固定資産の数が膨大になるので、非常に厄介です。

エクセルで減価償却費の計算をすることが多いのですが、数が多いと検証を行うのが大変です。

計算が合わないとドツボにはまります。

エクセルの数式が壊れていたりすると、発狂ものです。

 

減価償却費を計算するには、以下の項目を確認する必要があります。

項目 確認内容
資産の異動 新規取得、期中売却、期中除却
計算方法 定率法、定額法など
資産の情報 取得年月日、使用年月日、取得価額
耐用年数 会計と税法の耐用年数

意外に確認すべきポイントが多いです。

減価償却費は、簿記3級でも出てくる内容ですが、侮れません。

外形標準課税

外形標準課税も、集計するのに手間がかかる項目です。

外形標準課税とは、資本金や従業員数など事業規模をベースに課税する方式のことをいいます。

資本金が1億円超の法人は、外形標準課税が適用されます。

外形標準課税の特徴

  • 資本金1億円超の法人が対象
  • 報酬給与額の集計が煩雑

資本金1億円超の法人が対象

外形標準課税は、資本金が1億円を超える法人が対象です。

大企業にしか適用されず、中小企業をはじめ多くの会社では適用外になります。

外形標準課税は、集計が大変なので、対象となる会社が限定されているのは非常に助かります。

しかし、対象が大企業に限定されているが故、外形標準課税の対象になった場合は、かなりの重労働になることを覚悟しなければいけません。

特に厄介なのが、付加価値割の計算です。

付加価値割には「報酬給与額」「純支払利子」「純支払賃借料」の3つの項目があります。

給与や支払家賃などの総勘定元帳を分析して、必要な金額を抽出する必要が出てきます。

大企業では、一つの勘定科目の中に膨大な数の仕訳が蓄積されています。

きちんと科目を分類して仕訳が計上されていれば良いのですが、いろいろな項目がごちゃ混ぜになって計上されていたら、必要な金額を抽出するのに気が遠くなるような作業が必要になります。

報酬給与額の集計が煩雑

外形標準課税の付加価値割の項目の中に、「報酬給与額」というものがあります。

報酬給与額は、役員や従業員に支払う報酬、給与、賃金、賞与、退職手当などの金額を集計して計算していきます。

所得拡大促進税制と同様に、給与や従業員に関するデータのため、人事部の方に協力をお願いしてデータを収集する必要が出てきます。

また、大企業のため、出向やエクスパッツ、退職給付会計など、ややこしい論点も絡んできます。

報酬給与額を正確に集計しようとすると、会社の制度がどのような仕組みになっているかまで理解しないといけなくなります。

かなりの時間と労力が必要になります。

最後に

税理士が頭を悩ます論点についてご紹介してきました。

時間がかかったり、ミスをしやすかったりと、厄介な論点ですが、逆に言えば税理士の腕の見せ所ともいえます。