日商簿記1級と税理士試験の簿記論どちらを目指すべきか

日商簿記1級と税理士試験の簿記論どちらを目指すべきか

日商簿記2級に合格しさらなる高みを目指す場合、日商簿記1級と税理士試験の簿記論のどちらを選ぶべきかという問題が生じます。

日商簿記1級と簿記論はよく比較される試験ですが、中身は結構違います。

今回は「日商簿記1級と税理士試験の簿記論どちらを目指すべきか」考えていきたいと思います。

日商簿記1級と簿記論の違い

試験の難易度

受験生が一番気になるのは、試験の難易度ではないでしょうか?

いきなり結論ですが、日商簿記1級と簿記論の難易度は同じです。

日商簿記1級と簿記論ではどちらの難易度が高いのか、しばしば論争になりますが、私は同じくらいと考えています。

出題範囲が違うので比較しにくいですが、合格に必要な勉強時間は大差ないのではないかと思います。

どちらも簿記の最高峰の試験であることに間違いはありません。

日商簿記1級と、税理士試験の1科目合格は、同等の評価でしょう。

 

私は、日商簿記1級と簿記論の両方に合格していますが、どちらの試験もかなり苦戦しました。

合格するまでに、少なくとも1,000時間は勉強しました。

個人的には、簿記論との相性が悪かったので、簿記論の方が合格までに時間がかかりました。

人によって、どちらの試験の方が得意ということはあるかもしれません。

同じ簿記の試験であっても、実際の試験問題はかなり違うものだからです。

 

日商簿記1級は、1年に2回受験するチャンスがあります。一方、税理士試験は1年に1回しかないので、簿記論を受験するチャンスは1年に1回だけです。

受験機会だけ見ると、日商簿記1級の方が間口が広いです。

合格率

日商簿記1級と簿記論の合格率は、次のようになっています。

日商簿記1級の合格率

令和元年6月 8.5%
平成30年11月 9.0%
平成30年6月 13.4%
平成29年11月 5.9%
平成29年6月 8.8%
平成28年11月 9.3%
平成28年6月 10.9%
平成27年11月 9.6%
平成27年6月 8.8%
平成26年11月 8.8%

 

簿記論の合格率

平成30年度 14.8%
平成29年度 14.2%
平成28年度 12.6%
平成27年度 18.8%
平成26年度 13.2%
平成25年度 12.2%
平成24年度 18.8%
平成23年度 14.8%
平成22年度 12.5%
平成21年度 9.9%

 

両者10%前後で推移していますが、簿記論の方がやや合格率は高いです。

ただし、これくらいの合格率になってくると、どちらが簡単とかは言えないですね。

100人受けて10人ちょっとしか合格できないので、狭き門であることは間違いありません。

出題範囲

日商簿記1級と簿記論で大きく違うのは出題範囲です。

日商簿記1級では工業簿記や原価計算が出題されます。

簿記論も形式上は工業簿記が出題範囲に含まれていますが、実際は大した問題は出題されません。

製造原価報告書の計算ができれば十分対応できるレベルです。

簿記論では商業簿記がメインになります。

 

私は、日商簿記1級は、工業簿記・原価計算によって合否が決まると考えています。

日商簿記1級は、工業簿記・原価計算で差がつく試験です。

日商簿記1級が難しいのは、工業簿記・原価計算でつかみどころのない問題が出題されるからです。

文章の読解力やひらめき等、商業簿記とは少し違った視点が求められます。

関連記事>>>日商簿記1級合格への戦略。工業簿記・原価計算がポイント

 

商業簿記だけを比較すると、日商簿記1級よりも簿記論の方が圧倒的に難しいです。

簿記論の方が、試験時間に対しての問題量が多いので、かなりの解答スピードが求められます。

また、簿記論では全ての問題を解答することはできないので、解ける問題だけを解いていくという問題の取捨選択能力が問われます。

簿記論の試験が難しいのは、この問題の取捨選択能力が問われるからです。

同じ商業簿記の問題であっても、日商簿記1級と簿記論では解き方を変えないといけません。

簿記論の方が、癖が強い試験になります。

関連記事>>>【税理士試験のコツ】簿記論を一回で合格するための攻略法を伝授します

日商簿記1級と簿記論どちらを目指すべきか

それでは、簿記のスキルアップを目指す場合、日商簿記1級と税理士試験の簿記論ではどちらを選んだらよいのでしょうか?

正解は、将来自分はどのような道に進みたいのかという視点で考えることです。

資格コレクターであればどちらでもよいと思いますが、会計の仕事に携わっていきたいのであれば、将来の自分の姿をイメージして決めた方がよいです。

将来税理士になりたい場合

将来税理士になりたいのであれば、簿記論を選ぶべきです。

税理士になるためには税理士試験に合格しないといけません。いずれ税理士試験を受験することになるのであれば、最初から税理士試験対策をするのが効率的です。

最短で税理士になるためには、無駄な勉強は極力避けないといけません。

 

日商簿記1級は、工業簿記や原価計算が出題されるのがネックです。日商簿記1級では足切りがあるので、工業簿記や原価計算についてもしっかり勉強しないと合格できません。

工業簿記や原価計算の知識は実務でも非常に重要なので勉強しておいた方がいいのですが、税理士試験のことだけを考えると工業簿記や原価計算ができてもそれほどアドバンテージになりません。

税理士試験では工業簿記や原価計算の知識はほとんど問われないからです。

将来税理士になりたい場合は、簿記論を選ぶことをおすすめします。

関連記事>>>税理士試験に最短合格するための勉強法と資格を目指す上での心構え

大企業の経理職を目指す場合

大企業の経理職を目指す場合は、日商簿記1級がおすすめです。

日商簿記1級の勉強をすると、商業簿記と工業簿記をバランスよく習得できるので、経理の仕事をする上で非常に役に立ちます。

特にメーカーの経理であれば、工業簿記や原価計算の知識は絶対に必要になります。

これから就活を行う場合、履歴書に日商簿記1級合格とあれば有利になるのは間違いありません。

日商簿記1級は誰でも合格できる資格ではないので、一目置かれることになります。

簿記論の科目合格でも履歴書に書くことはできるのですが、会計事務所に就職する場合に比べると、一般企業での評価はそれ程高くないように思います。

世間一般では日商簿記1級の方が、知名度は高いでしょう。

将来大企業の経理職を目指す場合は、日商簿記1級を選ぶことをおすすめします。

税理士試験の受験資格がない場合

税理士試験を受験するためには、受験資格があることが必要になります。

受験資格にはいくつか種類があるのですが、経済系の大学に進学した人でないと受験資格を満たさないことが多いです。

詳細は国税庁HP「税理士試験受験資格の概要」をご参照ください。

受験資格がない場合、税理士試験を受験するためにはまず受験資格を得ることが必要です。

日商簿記1級に合格すると、税理士試験の受験資格を得ることができます。

そのため、税理士試験の受験資格がない場合は日商簿記1級を目指すしかありません

他にも全経簿記上級に合格すると受験資格を取得できるのですが、いかんせん全経簿記はマイナーなので、通常は日商簿記1級を目指すことになります。

受験資格を得るために科目合格と同等レベルの試験に合格することが必要なのは、ハードルが高すぎるような気もしますが、試験制度に文句を言っていても始まりません。

税理士試験の受験資格がない場合は、日商簿記1級を目指しましょう。

公認会計士になりたい場合

公認会計士になりたいのであれば、日商簿記2級合格後すぐに会計士講座に進んだ方がよいです。

公認会計士の財務会計論と管理会計論の勉強をしていれば、日商簿記1級と簿記論のどちらにも合格できる実力がつきます。

財務会計論と管理会計論の出題範囲には、日商簿記1級と簿記論の出題範囲が全て含まれています。

試験の出題形式は違うので、何も対策しないで試験に臨むと撃沈する可能性が高いですが、何回か過去問を解いておけば十分合格できます。

むしろ、日商簿記1級と簿記論に合格できないようでは公認会計士試験を突破することは極めて難しいでしょう。

公認会計士試験に合格する人は、勉強の過程で日商簿記1級と簿記論に合格していきます。

公認会計士試験に合格していった友人だと、みんなそんな感じでした。

将来公認会計士になりたい場合は、会計士講座を選ぶことをおすすめします。

まとめ

日商簿記1級と税理士試験の簿記論のどちらを選ぶかは、将来自分はどのような道に進みたいのかという視点で考えることが大切です。

税理士を目指すという強い意志がある人以外は、日商簿記1級の方が無難かなと思います。

日商簿記1級があれば、転職をするときにもかなりの武器になります。

 

日商簿記1級でも簿記論でも、合格するためにはかなりの勉強量が必要になります。

後悔のない選択をしてほしいと思います。