税理士の仕事をしていると、振込手数料の処理でなんだかなあと思うことがあります。
もやもやしているのは、振込手数料は「支払い側」と「受取り側」のどちらが負担するのかという問題です。
私は、振込手数料は基本的には支払い側が負担するものと考えていますが、世の中にはいろんなケースがあります。
仕事柄、多くの会社の取引内容を見る機会があるのですが、振込手数料を受取り側が負担しているケースもよく出てきます。
今回は、振込手数料は誰が負担するのかという問題について考えてみたいと思います。
給与を支払う場合は支払い側が負担
本題に行く前に、給与の処理について考えてみます。
今の時代、従業員に給与を支払うときはほとんどが銀行振り込みです。
給与を支払うときにかかる振込手数料は、会社が負担しますよね。
振込手数料分が差し引かれて入金されるなんて話は聞いたことがありません。
給与明細を見ても振込手数料なんていう項目はないです。
振込手数料を差し引いて給与を支払おうものなら、悪名高い会社として速攻でYahoo!ニュースで報道され炎上することでしょう。
法的にも、振込手数料を差し引いて支払うことは禁止されています。
労働基準法に「全額払いの原則」というものがあり、賃金の一部控除が禁止されています。
そのため、給与を支払う際は、支払い側が全額負担しないといけません。
取引先に支払う場合も支払い側が負担するものじゃない?
振込手数料は、銀行などの金融機関で振り込みをしたときにかかる手数料です。
振り込みという銀行のサービスに対して支払うものです。
取引先に対する債務とは全くの別物です。
振込手数料は、取引先からモノを買ったりサービスを受けたりしたことで発生するものではありません。
先ほどの給与と同じですが、基本的には振込手数料は支払い側が負担するものだと思います。
受取り側からしてみれば、振込手数料がかかるからその分差し引いて支払われるというのは酷い話です。
振込手数料なんて金融機関によって金額が違います。
相手側の事情で、差し引かれる振込手数料の金額が変わってくるというのも変な話です。
振込手数料分をまけてもらうというのは、取引先から値引きを受けるということです。
取引先の承諾がないのに勝手に手数料分を差し引いて支払うのは、大問題です。
100円の商品を無理やり95円で買っているのと同じです。
取引先に対するリスペクトが欠けているように思います。
しかし、ビジネスの現場はそう単純なものではありません。
業界の商慣習、取引先との力関係などで理屈とか関係なく決まる場合もあります。
振込手数料は決して安くはないので、振込回数が多いと負担は大きくなります。
振込手数料を何とかしたいという気持ちはわかります。
取引先との力関係が弱ければ、振込手数料を負担するという条件を飲まないといけないこともあるでしょう。
法律上はどうなのか
民法485条では「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする」と定められています。
振込手数料も「弁済の費用」に該当します。
振込手数料について事前に合意がない場合、振込手数料分を差し引いて支払うと法律上は債務を全額弁済したことになりません。
振込手数料は、支払い側(債務者)が負担するのが原則になります。
振込手数料を差し引いて支払いたいのであれば、契約書などで事前に決めておくことが必要になります。
どちらが負担するのか曖昧だとトラブルの元です。
支払い側が負担するにせよ、あらかじめきちんと決めておいた方がいいでしょうね。
振込手数料問題は奥が深い
振込手数料を受取り側が負担している場合であっても、実は振込手数料分が価格に上乗せされているというケースもあるかもしれません。
振込手数料は誰が負担するのかという問題は実に奥が深いです。
最近は、お金を支払う際にクレジットカードを利用することも多いです。
クレジットカード払いであれば、決済にかかるコストは受取り側が負担することになります。
支払い側が決済コストを負担することはありません。クレジットカードなんて年会費無料で加入できるので、全くコストをかけずにクレジットカード決済のサービスを利用することができます。
クレジットカードの加盟店手数料は結構高いです。安くても3%くらいかかります。
どうしてこんなにコストをかけてまでクレジットカード決済を導入しているのかと言うと、お客様の利便性を高めて自社と取引してもらうようにするためです。
顧客満足度を高めているということですね。
手数料を負担しても、それ以上に売上が増えたら十分利益が出るという場合もあるでしょう。あるいは、クレジットカード決済が使えないと商売上著しく不利になり、ライバル企業と勝負できないという場合もあるでしょう。
振込手数料ひとつとっても、いろんなビジネスの裏側が感じ取れます。
社会に出ると答えは一つではないというのが難しいところですね。