税理士になって感じた税理士試験と実務とのギャップについて

税理士になって感じた税理士試験と実務とのギャップについて

税理士の仕事をしていると、税理士試験と実務との間でギャップを感じることが多々あります。

得てして、試験と実務ではギャップがあるものですが、税理士試験ではどのあたりに違和感があるのでしょうか?

税理士試験の試験問題について、掘り下げていきたいと思います。

税理士試験と実務とのギャップ

経理担当者が素人

試験問題に登場する会社の経理処理は、基本的にめちゃくちゃです。

売上高が数十億もある会社の経理を、簿記を知らない人が担当しています。

金額を一桁間違ったり、仕訳を貸借逆に切ったり、勘定科目を間違ったりとやりたい放題です。

 

昔解いた問題で、問題文の中に「経理部に異動して1か月目の社員が担当しているため、間違った処理をしている箇所があります」というようなことが書かれていたことがあります。

いろいろつっこみどころがあり、思わず笑いそうになりました。

簿記を知らない人が担当するのは社内事情でどうにもならないにしても、ちゃんと教えてあげたり、チェックしたりしてあげてや!と思いますね。

 

こんな会社が実在していたとしたら、今すぐ社内体制を改善しないと大変なことになります。経理がずさんだと、会社はつぶれますよ。

関連記事>>>経理は経営戦略。経理がずさんだと会社は倒産します

 

期中の処理が完璧だったら試験問題にならないので、期中の経理処理がめちゃくちゃなのはやむを得ない面がありますが、試験問題を解くたびにつっこみを入れたくなります。

マイナーな処理が頻出

試験問題では、実務では使わないようなマイナーな処理がよく出てきます。

みんなが解ける問題を出題しても差がつかないので、出題者はあの手この手で変化球を繰り出してきます。

例えば、減価償却の方法としては、実務では定率法や定額法を使います。99.9999%定率法か定額法です。

でも簿記のテキストには、定率法や定額法の他にも、級数法や生産高比例法といった方法が載っています。

テキストに載っているということは、試験で出題される可能性があるということです。

実務では、いまだかつて級数法や生産高比例法を見たことはありませんが、試験対策上はおさえておかないといけません。

税理士試験では、こういうことがゴロゴロあります。

1つや2つであれば、それほど労力はかかりませんが、量が増えてくるとかなりの負担になります。

試験に合格するためには、実務で使うとか使わないとか関係なく、出題される可能性のある論点はマスターしておく必要があります。

決算期を毎年変更している

消費税の試験にありがちなのですが、決算期を毎年変更している会社が登場することがあります。

決算期が不規則になると、消費税の納税義務を判定するのが難しくなり、受験生を惑わすには好都合だからです。

実務上、毎年決算期を変更することはできなくはないですが、そんな会社まずありません。

決算期を変更したら、手間がかかりますし、何よりややこしくなります。

よほどの事情がない限り、普通は決算期なんて変更しません。

試験は部分点を稼げば良い

試験では完璧に解答することを求めてはいけません。部分点を積み重ねて合格点に達すればそれでよいのです。

そもそも試験は、完璧に解けるように作られていません。

簿記の試験では、当期純利益が間違っていても、貸借が一致していなくても、他で点数が取れていれば合格できます。

一方、実務では、全て正しい処理をしなければいけません。9割処理が合っていても、1割ミスがあればダメなのです。

お客様に貸借が一致していない試算表を渡したりなんてしたら、税理士失格です。

今感じている一番大きなギャップかもしれません。実務では、部分点という考え方はありません。

実務では仕訳を切るまでが難しい

実際の試験では、問題を解いていくための条件は、すべて問題文に書いてあります。

ところが、実務になると、計算していくことよりも、計算をする上での前提を整理することの方が難しいです。

減価償却の例で考えてみたいと思います。

減価償却の問題が出題されるときは、取得価額や耐用年数などの条件については、問題文で与えられます。

試験では、きちんと計算ができるのかというところに配点がきます。

一方、実務の場合、減価償却の計算で一番難しいのは、取得価額と耐用年数を決める部分です。

建物の内部造作があった場合は、そもそも固定資産に計上する必要があるのかというところから考えないといけません。

資本的支出なのか修繕費でいいのか、きちんと判断する必要があります。

まとめて工事をしていたら、共通経費については、それぞれの資産ごとに按分しないと、正確な取得価額は計算できません。

耐用年数だって、見積書などで内容をちゃんと確認しないと判断できません。

固定資産を取得した場合は、減価償却をする上での前提条件を決める作業が一番大変です。

 

逆に、減価償却費を計算するのは、試験の方が難しいです。

なんせ実務では、細かい計算はすべてパソコンがやってくれます。

単純な計算ミスをするなんてことはありません。

税理士試験では電卓の使用が認められていますが、電卓が使えるとはいっても、ほとんど手計算で解かないといけません。

しかも、試験では複雑な問題が出題されるので、正確に計算するのはかなり大変です。

税理士試験はあり得ない設定を楽しむ

試験問題では、実務では絶対に出てこない、あり得ない設定が登場します。

オーソドックスな問題を出題しても受験生間で差がつかないので、試験問題が難しくなるようにめちゃくちゃな設定をぶち込んできます。

税理士試験は、実務ができるようになるための試験ではないので、やむを得ない面はあります。

しかし、こんなマニアックな知識が本当に必要なのかと思う場面に遭遇することがよくあります。

税理士試験の受験テクニックを極めても、必ずしも実務には活用できない訳です。

そのため、私は、税理士試験は税理士になるための試験と割り切って、1年でも早く合格を目指すのが一番と考えています。

実務は仕事をしながら覚えていくのが一番身に付きます。

関連記事>>>税理士試験に最短合格するための勉強法と資格を目指す上での心構え

でもなんだかんだ試験勉強は実務で役に立つ

試験勉強をしただけでは実務ができるようにはなりません。しかし、試験勉強で得た知識やスキルが、実務で役に立つのもまた事実です。

実務未経験者であれば、試験勉強をしていてもしていなくても、最初は実務で差はつきません。どのみち仕事はできません。短期的な視点では、試験勉強は実務で役に立たないと感じるかもしれません。

でも、少しずつ実務に慣れてくると徐々に差が出てきます。税理士試験で基本をきちんと勉強しておくと、仕事を覚えるスピードは確実に早くなります。

試験勉強をしていない人は、定型的な処理には対応できても、ちょっと知らないことが出てくると途端に対応できなくなる傾向があります。表面的な知識しかないため、応用が利きにくいのです。

試験勉強で理論を学習しておくと後々役に立ちます。なぜこのような処理をするのだろうと一歩踏み込んで考えることができるようになります。

こういう小さな積み重ねが、いずれ大きな差につながります。

税理士試験の勉強をしていたときは、辛くて仕方ありませんでしたが、今振り返ってみると勉強しておいてよかったなと思います。